コラム

女性に対する「ジェンダー・バイアス」は根強い。ではどうするか?(後編)

太田 由紀サイコム・ブレインズ株式会社
取締役専務執行役員

「ATD国際会議2016」への参加を通して、「ダイバーシティ・マネジメント先進国であるアメリカにおいても、女性に対するジェンダー・バイアスは根強く存在している」ことを実感したサイコム・ブレインズの太田由紀。コラムの後編は、日本のビジネス社会に特有と思われるジェンダー・バイアスにも着目しながら、現在多くの日本企業が取り組んでいる女性活躍推進について、人材開発の側面からサポートするには何をすべきかを考察します。(コラム前編はタチカワ木製調ブラインド ラダーコード仕様 フォレティア チェーンタッチ アクア50 幅200×高さ180cmまで

女性活躍推進を阻む、日本特有のジェンダー・バイアス

コラムの前編でお伝えした通り、アメリカのビジネス社会においてもジェンダー・バイアスは根強く存在しているようです。このジェンダー・バイアスのあり方は、大きく分けて二つあります。一つは、「女性がビジネスの場で(効果的なコミュニケーションやふるまいをしないと)感情的であると捉えられるなど、男性と平等かつ正当な評価が得られない」というものです。これは男女問わず周囲が女性に対して持っているバイアスに起因しています。もう一つは、女性が自分自身に対して持っているバイアスで、「自分は有能ではなく、自信が持てない」というものです。これらのバイアスはアメリカだけのものではなく、日本のビジネス社会にも共通するものではないでしょうか。

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では、女性に対するジェンダー・バイアスの問題に対して、日本企業はどのようなアプローチを取ればよいのでしょうか。アプローチの対象や施策の方向性を分解して考えると(下図参照)、アメリカと共通する問題の他に、やはり日本の企業やビジネスパーソンが持っている「キャリア」や「働き方」についての考え方、あるいは「男性上司の意識」など、日本特有のジェンダー・バイアスに着目すべきでしょう。今回は人材開発の領域での取り組みが中心となるであろう、下図の①~④について考察します。

女性に対するアプローチ 「周囲が女性に対して持つバイアス」に対する効果的な適応法を伝授する ⇒ ①
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「家庭における夫・父としてのバイアス」を取り除く
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「働き方についてのバイアス」を取り除く

①「周囲が女性に対して持つバイアス」に対する効果的な適応法を伝授する

スイスに拠点を置くビジネススクールIMDの教授であるギンカ・トーゲルは、その著書『女性が管理職になったら読む本』で、「男性はこうあるべき」「女性はこうあるべき」「リーダーはこうあるべき」といった固定観念が、女性の採用や評価・昇進・転職を妨げていると主張しています。また同著では「とても積極的で指揮統制的なリーダーシップ・スタイルを取る女性が、その特性をそのまま前面に押し出すと、『嫌な女』というレッテルを貼られてしまうことが往々にしてある」と述べています。こうしたバイアスは、アメリカだけでなく日本においても根強く存在します。

このような周囲からのバイアスに対しては、そのバイアスを取り除くよりも、「女性自身が発想を転換し、バイアスに対峙・適応できるようになる」ためのトレーニングを行うことが近道であり、効果的です。この場合の適応というのは、考え方も働き方も男性と同化するということではありません。一方的なレッテル貼りなど気にせず、男性と同じような働き方をすることで、自分の望むキャリアを実現する女性も確かに存在しますが、現在の女性活躍推進の中で期待の目を向けられている女性たちの多くは、そのような働き方を望んでいません。そもそも女性活躍推進は、多様な働き方や価値観を受け入れて、人材不足の解消やイノベーションの創出を目指すものです。

サイコム・ブレインズでは、女性管理職やその候補者を対象として、「アサーティブなコミュニケーションを取る」あるいは「メンバーの考えや成長意欲を支援する」など、自分の価値観を大切にしながらも周囲にポジティブな影響を与えるリーダーシップを身につけるための公開講座を実施しています。受講者は、「自分の強みをリーダーシップ・スタイル構築に活かせることが分かった」「コミュニケーションスタイルを変えるだけで、周囲の反応がポジティブに変わった」と述べています。

②「女性が自分自身に対して持つバイアス」を取り除く

管理職およびその候補者である女性の多くが「自分に自信を持てない」状況にあることは、以前私のコラムでお伝えした通りです。(参考:女性管理職は「他流試合」で一皮むける)自信がないことを過剰に気にするあまりチャレンジすることを躊躇しているのだとすれば、それは女性が自分自身に対してバイアスを持っているというべきでしょう。私が研修等でお会いする女性は、皆間違いなく男性と同等の力を有しているので、あとは自身の強み・弱みを客観的に把握したうえで、「弱み=自信がない原因」を一つひとつ潰していくことが、まずは効果的と考えます。

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③「男性上司が持つ女性部下に対するバイアス」を取り除く

ダイバーシティ推進のご担当者から度々お聞きするのが、「上司は良かれと思っていろいろ配慮するが、実はそれが女性部下の成長を妨げている」というお話です。たとえば皆さんの会社では、「きつく叱るのは(泣いてしまうかもしれないし)かわいそう」とか「女性には工場内の危険な仕事はさせられない」など、男性部下に対しては当然のように行うこと・指示することを、女性部下に対しては「気づかい」を理由に避けてしまう、といったことはありませんか? こうした「気づかい」につながる思い込みこそがバイアスです。そしてこのバイアスは、女性社員が成長するチャンスを奪ってしまいます。

このバイアスは、「パターナリズム(家父長主義)」と呼ばれるものです。これは、父と子の関係のように、強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益になるようにと、本人の意志に反して行動に介入・干渉することを意味しています。

パターナリズムを解消するための有効な方法は、実は大変シンプルです。それは「本人の意思に反することがないよう、あらかじめ本人とコミュニケーションを取る」ということです。しかし、多くの企業においては上司が多忙であること、またパワハラ・セクハラへの恐れから女性社員とのコミュニケーションにしり込みする上司が多いことから、なかなか難しいようです。

従って、人材開発の面から男性上司に対してアプローチする際は、「女性部下が成長するために必要な経験は何か、上司として把握すること」「上司自身が自分たちの持つバイアスに気づくこと」「そのうえで女性部下との効果的なコミュニケーション法を習得すること」が重要です。ちなみに、サイコム・ブレインズでも男性上司向けの研修を実施していますが、毎回数名ほど、こうしたバイアスを持たず、コミュニケーション能力も高い男性が存在します。そういう方たちと話をしてみると、ほぼ例外なくフルタイム勤務の女性が自身の家族にいるか、複数の外国人部下をマネジメントした経験があります。バイアスは「自分事」として体験する中で解消されていく、ということでしょう。

④「キャリアについてのバイアス」を取り除く

先述のギンカ・トーゲル教授の著書では、「日本の女性の多くが、そもそもリーダーになりたいとは思っていない、ということに驚いた」と述べています。確かに、管理職候補の女性の中には「時短勤務なのに仕事・家事・育児でいっぱいいっぱい。これ以上は無理」「上司を見ていると長時間働いているし、責任も重いし、自分にはできそうにない」「現状のまま、自分のペースで働き続けたい」と考える方も多いようです。また昨今では、「(女性だけでなく)男性も管理職になりたがらない」「(男女問わず)『自分のキャリアは会社が決めること。自分で決めることはできない』と諦めて、能力開発に積極的に取り組まなくなった」といった嘆きの声を、複数の名だたる企業の人事の方から頻繁にお聞きするようになりました。

本来キャリアというものは、自分で考え積極的に行動してこそ形成されるものです。であるにもかかわらず、「現状がいっぱいいっぱいだから」「会社が決めることだから」と思考停止したり、「上司が大変そうだから」と近視眼的な考え方に陥ることは、キャリアにおける選択肢を自ら狭めることになります。こうした考えもバイアスと呼べるでしょう。

このバイアスは、日本で長く続いてきた雇用慣行からくるものではないでしょうか。今でこそ終身雇用は揺らいでいますが、かつて大企業に所属するホワイトカラーの男性は、ジョブローテーションを重ねて管理職になり、定年まで勤務する、というキャリアパスが一般的でした。そのため、自身のキャリアを自分で計画するという意識が希薄だったようです。また女性の場合も、結婚・出産・子育てといったライフイベントを意識した場合、かつてはキャリアの選択肢が非常に少なかったため、やはりキャリアを自身で計画することができる、と考える人はまだまだ少ないようです。

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バイアスは、「論理的に考え検討する手間を省くことができる」という側面もあるので、すべてのバイアスが悪いというわけではありません。しかし、我々は「以前もそうだったから今度もそうだろう」とか「皆そうしているから、それが正しいだろう」と短絡的に考え、自分の都合のいいように物事を解釈しがちです。

女性活躍推進に取り組んでいる方の中には、「ウチの会社にはロールモデルとなる女性がいない」というご意見をお持ちの方もいらっしゃいますが、もしかしたらそのご意見もバイアスではないかと疑ってみることをお勧めします。たとえば、最近私が関わった企業では、「小さな子どもがいるのだから、海外出張は無理だろう」というご意見に対し、「本当にそうか?」と疑問をもって社内を探したところ、実際に小さなお子さんがいながらも積極的に海外に出向いて仕事をしている女性社員がいました。しかもその方は、「海外出張は、自分の業務としてもキャリア形成としても必要だから、そのための努力は惜しまない」という考えを持っていて、まさにロールモデルとなりうる女性が存在していることが分かったのです。

ジェンダー・バイアスを乗り越えて女性の活躍をさらに推し進めるためには、推進を担う側も、現場の女性も男性も、一人ひとりが「本当にそうなのか?」と疑問を持って検証し、そのうえで対策を考えて行動することが求められていると強く感じます。

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